ゼンガルセン=シェバイアスの遺書
 遠い我が子孫が『我々は、何故人を殺すのか』
 その理由を知る術がなくなった時に向けて残している


 我らエヴェドリットの成すべき事はただ一つ
 人を殺すという事だ
 理由を理解していれば、お前達は殺すであろう
 そして理由を知る事ができなくなったならば



人類を殲滅しろ



 それだけだ
 我々は『人』を殺す為にシュスターに下ったのだ
 理由を知らぬということは、既にシュスターは存在していない事に疑いはない
 もしかしたら、我等が殺してしまったのかも知れぬが

************* 中略 *************

 異星人の殲滅は、何時か達成されるであろう
 我等、殺戮の化身達が存在する以上、あれ達に未来はない
 それは疑いようのない事実
 惜しむらくは、それに止めを刺すのがゼンガルセン=ゼガルセアではないと言うことだ
 この書を認めている今現在はゼンガルセン=ゼガルセアだが、あと五時間もすれば我はゼンガルセン=シェバイアスとなり出撃するであろう
 二度と戻ってはこぬ
 我は死ぬが、この時点で異星人は殲滅させられぬ
 我は先年死んだ王妃に誓った
 必ずや、異星人を殲滅させると
 異星人を殲滅させるまで死ぬなとあの王妃は言ったが、それを守るつもりはない

 我は今死ぬ

 我と王妃の誓いの履行をお前達に託すわけではないが
 我がエヴェドリットの名を継ぐ者達よ
 異星人、最後の一匹を踏みにじり、種の断絶を齎すのがエヴェドリットである事を我は期待する

エヴェドリット国王・ゼンガルセン=ゼガルセア・ナイサルハベルタ・アーマインドルケーゼアス

************* 私信 *************

エヴェドリット王妃・アレステレーゼ=レーゼ・ベレミーテュシア・ラディランジアンに宛てて

 アレステレーゼよ
 貴様のその『アレス』というのは『火星』を表す言葉の一つだ
 そう、リスカートーフォン公爵の事だ
 だから貴様は我の后以外にはなってはならぬのだ
 それは貴様が名付けられた時から決まっていたのだ
 もっと正確に言ってやろう
 貴様は我以外の者を愛する事はできぬのだ
 貴様はアレスであり、アレスは我に従うものだから
 我に従うものであり、我以外の者を見る事は許されぬのだ
 それでも我は寛大であるので、貴様が生きている間は
 他の者を見る事も、他の者を愛する事も許してやった
 別の男との間に儲けた息子を愛する事も許してやった
 そして貴様は先年死んだ
 我を残して死んだ
 貴様は我の死を悼み、我の霊廟の前で泣き崩れるべきであったのだ
 
我は今死ぬ

 よってこれからは、貴様は他の誰をも見る事も、愛する事も許さぬ
 このゼンガルセン=ゼガルセアが許さぬ
 アレステレーゼ・デイラト・マクセーヌ・ラリウよ
 ゼンガルセン=シェバイアスだけを愛する準備を整えて待っていろ

 いいな、命令だぞ
 貴様に拒否する権利はない
 
 皇帝は今しばらく生かしておいてやる
 お前の事を慕っていた騎士にとって必要な相手だからだ

 我は寛大だから

 今しばらくお前が別の者を愛する事を許してやろう
 我も傍でともに愛してやろう、父親として


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